クールガールのハイヒールを作る



クールガールの6インチハイヒールを作る

Bizarre誌1946年アメリカで刊行されたビザール誌  今では、映画、TV、雑誌などですっかりポピュラーになったビザールファッションですが、もともとは、1946年にアメリカで発刊された”Bizarre”という雑誌が発祥です。当時の常識からすると、非常に奇抜で、常識はずれなファッション、大阪弁で言えば、めちゃくちゃ”けったいな”ファッションだったのです。
   そのビザールファッションを特徴づけたのが、6インチのハイヒールでした。これはピンヒールの細いかかとに、15cm~!! (2.54cmx6)もあるハイヒールです。実際に、これを履いた女性の写真がたくさん載っていますが、歩けるんですかね?
   さて、この”Bizarre”では、驚いたことにこの、6インチハイヒールを数値的にちゃんと計算して図面化しています。つまり、6インチハイヒールは、単なる、思いつきで生まれたのではなく、論理的に考察された上で、生み出されたビザールファッションのコアアイテムなのです。


ビザールの6インチハイヒール50年以上も昔の6インチハイヒールの設計図面

cyber beauties1998年からサイバービューティーズの商品名で販売していた3Dモデルデータ集  そういう経緯がありますので、ビザールファッションを展開するうえで、この6インチのハイヒールはどうしても外すことができません。なんとしてでも、作りたいアイテムでした。しかし、6インチというと、1/6スケールでも、なんと、2.54cmもの高さになります! これを、実現するために、まず直面した大きな問題が…。6インチのハイヒールを履くための足がない! これには、参りました。どこにも、売ってない。ハイヒールだけ作れば良いと、安易に考えていただけに、これは困りました。しかし、無いのならば作ってしまえ!がビザールクイーンなので、とうとう6インチハイヒール用の足からまず、作ることになりました…。
    幸い、弊社は10年ほど前のCG美少女ブームの時に、3Dモデルクラブとして、リアルな女性(Cyber Beauties)や美少女(Sailor Beauties)の3次元モデルデータを開発販売していましたので、そのデータをもとにCAMで削りだすことにしました。通常、フィギュアの世界には原型師と呼ばれる非常に、高度な造型技術をお持ちの職人さん(若い方がほとんどなので、ちょっと職人ということばのイメージに合いませんが)が、樹脂粘土などを駆使されて素晴らしい作品を自らの手で作り出すというのが、典型的なアナログの造型アプローチです。しかし、私には、こんな才能はまったく無いので!、幸いCG技術は20年以上も前のマイコン時代から養っておりましたから(ウソつけ!ゲームやってただけやん)デジタル的造型アプローチでやってみることにしました。





サイバービューティーズのデータ弊社製品サイバービューティーズ(CB)のボディ形状データをもとに開発スタート。08年9月初めCBの足データボディデータから足の部分だけを切り出す。CG用なので簡素なポリゴン形状。CBの足を加工する元データを6インチハイヒール用にポリゴンを細かくして、形状を修正していく

まず、懐かしいCB(Cyber Beauties)のボディデータを使い、足首だけを切り出します。基本的にCG用のデータというのは、ゲームやアニメに使うので、可動を前提でモデリング(造型)します。また、CGキャラクタの体の動きを計算するためできるだけ、軽い(簡素な)データになるようにポリゴンを減らします。これは、ストリートファイターや、モンスターハンターをご存知なら、おわかりと思いますが、キャラクタの体がカクカクした形状になっていると思います。これは、高速計算できるように、できるだけボディ形状のポリゴンを少なくしているのです。ゲーム、CG動画では、キャラクタのリアルな動きが形状よりも優先されるからです。

  ところが、クールガールなどのフィギュアの世界では逆に、リアルな形状が優先されます。このため、180度正反対のアプローチが必要になります。つまり、できるだけ、リアルに見えるようにデータ形状は細かく、そして切削しやすい形状に造型しなければならないのです。

  したがって、CBを元に改造するには、可動するように5本に分離した足の指を切削しやすいようにすべて一体化して、足全体の形状をリアルに見えるように細かくモデリングする必要がありました。このため開発開始が、2008年の9月初めで、ベース形状のモデリングに約1ヶ月かかりました。これは、平日はレザーウェアの試作開発作業で時間がなく、結局今回のハイヒール仕様の足のモデリング作業は毎晩、自宅で作業するしかなかったのです。

  おまけに、このころは、BackStage 特集で紹介したように、2台のF1、7台のインディアンバイク、1台のサイドカー、そして2台の白バイ(なんとヘッドライト、赤色灯点滅てんこ盛り規格)をビザールクイーンとビザール仕様の2種に改造するという無謀な予定が山のようにありまして、週末はエアブラシやパテ盛などの超アナログ作業、あげくのはては配線etcと格闘しておりました…。

クールガール用足のモデルデータ足の指と足を分離してモデリングする 08年10月ごろクールガール用足の指のデータ分離した指を一体化する。かなり苦戦しました。クールガール用足のモデルデータ足と指を結合したモデルデータ。クールガールに適合するよう足首など各部を修正。

なんとか、10月初めには、切り離した5本の指を美しい指の形状になるように配置する作業に入りました。どういう指の形にすると、女性の美しい足の表情をだせるか…修正の繰り返しでした。女性らしさの表現には、実は、手の指や足の指の表情がものすごく影響します。すぐれた写真家は常に、ポートレート写真を撮るときには細かい指の配置までポーズをつけます。間違ってもピースサインで、鑑賞写真を撮ったりしないでしょう?この作業のために、ハイヒールを履いた女性の、それもとびきり美しい指の表情がある足の写真を探しました。通常、ハイヒールを履いたら足の指は見えなくなるから無意味なようですが、将来、ハイヒールのサンダルなどを作ったとき、指が見えるわけですから、どうせつくるなら、究極の美しい指の造型を目指したわけです。

  こうして、配置も決まりましたので、いよいよ分離していた5本の指を一体化することになります。この作業は、地味で根気のいる作業でした。もともと、CG動画で動かしやすいようにモデリングした形状データを、こんどは重なり合う指の間を閉じていくために、あらたなポリゴン面を張るわけですが、気をつけないと穴があいてしまう。穴があいているところは切削できないので、点検作業にちょっとストレスがたまります。結局、足の本体部分と5本指部分の2つに分けたのも穴あきの点検作業のしやすさを考えたからです。できれば、足の胴、と指の一体化した状態で作業できれば、後工程の接合作業も無くなるので、楽だったのですが、しかたありませんでした。

   なんとか5本指の一体化もできあがり、いよいよ足の本体と接合する作業になります。このへんは、もう力仕事でガシガシ、ポリゴン面を作っては、足の指の頂点とつないでいくという、忍耐あるのみの作業の繰り返しです。こうして、どうにかこうにか、足の一体化が完成したときは、10月もはや終わりでした…

クールガール用足③かかとが6インチの高さになるよう、全体の角度修正中のクールガール用の足クールガール用関節球体関節部分を追加。関節球の直径や隙間の間隔を修正。完成したクールガールの足やっと完成したクールガールのハイヒール用の足。08年11月末でした。

基本ベースができあがりましたから、あとは、全体のバランス修正と球体関節部分の追加作業になります。まずは、6インチハイヒールの高さになっているかの最終確認作業です。1/6スケールですから、2.54cmのヒールとインソールの厚み分の補正を考慮したうえで、足の指から甲にかけての曲線を自然にかつ、美しい表情がでるように修正します。この時点で、狂いがある部分は、甲の部分やくるぶしも含めて360度ぐるぐる画面内で回転させて、全体のバランスをチェックします。

  最後に、球体関節の直径と、ベースから浮かす隙間を何ミリにするか、クールガールオリジナルパーツを参考にしてノギスなどで計測したうえで、モデリングします。ただ、現実には、何度もCAM切削した試作品を、実際にクールガールの足首にとりつけて、現物あわせをしながら試行錯誤して製品用の完成モデルを最終決定しています。そうして、11月末に完成したのでした。デジタル造型の具体的な流れが少しでもおわかりいただけたでしょうか?アナログ造型の場合、原型師の方が、パテを盛ったり、削ったりされるのと同じことを3次元CGの場合、ポリゴン面を張る、各頂点を動かして形状を修正することで造型していくわけです。結局、あしかけ、3ヶ月かけて完成したクールガール用の6インチハイヒール仕様の足パーツでした。冒頭の50年以上も昔の”Bizarre”雑誌の設計図面のオリジナルに極力忠実にモデリングしました。だから、このパーツをお使いになれば、そのまま”Bizarre"の世界になります。実際、これを履いたモデルさんたちを見るとまるで、雑誌から飛び出してきたかのように、強烈なオーラが感じられますよ。

  下は、ポーズ検討時のリハ撮テスト写真ですが、こんなポーズをキメたいがために、なんとしても6インチハイヒールを作りたかったのです。さすがのランボーもビザールクイーンにはヘロヘロでしょう…^0^ それにしてもホントに驚くのは、6インチもの高さの、それも約1mmほどしかないピンヒールのかかとのハイヒールを履いた、クールガールが自立するのですっ!これは、もう驚嘆するしかないです。もちろん、ハイヒール仕様の足をモデリングするときに、オリジナルボディと足本体の重心が同じになるように、位置あわせに注意しながら私もモデリングしましたが、それ以上に、いかに、クールガール本体の基本設計が素晴らしいか、重心バランスまで配慮したうえでの造型だと思います。これは、ぜひご自身の目でご覧になって、いっしょに感動しましょう!

ビザールクイーンのお仕置きビザールクイーンVSランボーの図

クールガールの現実空間へ

  以上が、いわゆる3DCGの世界での作業です。このままでは、コンピュータの内部にしか存在しない仮想的な物体でしかありません。つまり、実際に触ることができません。いままで、ずっとデジタル造型をしてきましたが、3DCGの表現できる世界が基本的に、2Dの世界、つまり、絵やイラストなどの印刷物、あるいはCG動画しかないというのは惜しいことです。3DCGの世界には、優秀なモデリング技術を持った若いひとたちがたくさんいるのに、その活躍できる場所が平面の世界にしかないというのは、もったいない。もっと、3次元の立体の世界、実際に手で触れることのできるフィギュアの世界などに彼らの技術を活用できる場所が広がれば良いなあと思います。
   そのためには、3次元CGの世界と3次元造型の世界の両方を理解し習得した人が、もっと増えて、どんなステキなことができるのか、どんな感動が生み出せるのかといったことを実際に形にして、多くのひとを啓発していく必要があります。その一環として、このコンセプトにしたがって、私たちにできることを具体的なビザールクイーンの製品に反映させて企画開発しています。とにかく、今は、デジタルの3次元CGは、アニメの平面の世界だけ。逆に、アニメの立体の世界は、アナログの原型師だけ。それぞれが、独立して個別の世界をもっています。もちろん、それぞれ良い点、悪い点はあるのですが、なんとか両者がコラボレーションをして、融合した形で新しい世界を築いていけないか…。そのために、試行錯誤を重ねながら新しい時代の職人…デジアナ職人を目指して、日々努力しています。


CAM用のクールガールの足CAM切削用に左右の足を配置し、部品支持用のランナーを追加Roland MDX40ACAM切削装置のRoland MDX40A改。ラピッドプロトタイピングでは業界標準機CAM切削ソフトCAM切削用のソフトに、足の形状データを読み、切削条件を設定

それでは、いよいよ3DCGの仮想空間の物体を、現実空間の物体にするための作業に入りましょう。切削するためには、3DCGで作成した足の原型を少し加工して、切削用のデータを作ります。つまり、現実世界で樹脂の塊から形状を削りだすので、切削中に脱落しないように、材料を支持するためのランナー(サポート部分)を追加したものを作成しておきます。

  データが用意できたら、切削にはいります。まずは、機械の紹介から。試作レベルでの業界標準機RolandのCAM切削機MDX-40A改です。量産用の金型を造るレベルだと、非常に高価で大掛かりなCAM専用機が必要ですが、我々のようにフットワークの軽い、RapidPrototyping(ラピッドプロトタイプ…試作用途)向きには、これで十分です。金属が切削できないのが残念ですが、多品種少量拘りモデルメーカーにとっては、樹脂専用でも支障はありません。このMDXも実は、10年前のCG美少女ブームと同時に初代MDX10というホビー仕様の切削機が販売され、大ヒットしました。

  私も当時のMDX10を導入し、初めてCBの女性ボディが仮想空間から、現実の触れる物体として切削して出来上がったボディに震えるほど感動したのを覚えています。たとえれば、映画スクリーン上の女優さんが、突然、スクリーンの中から飛び出してきて、あなたの目の前に現れたのと同じ感じです。実際に、自分の手で触れることができるという非常に原始的かつ本能的な五感に訴える感動…これは、本物のレザーにハマるという感動と同じじゃないかなと、思うわけです。

  このてのCAM切削機で物体を削るには、上記の3DCGソフトではダメです。なぜなら、通常3DCGソフトというのは、CGやイラスト、アニメ動画しか出力できない設計なのです。したがって、専用のCAM切削ソフトにモデルデータを読み込んでから、切削条件などを別途設定する必要があります。

クールガールの足を削る②足を削っているところ。実際は、周囲に切削くずがたくさん出ます。クールガールの足を削る③ABS樹脂30mm直径の素材で、クールガールの足を削ります。クールガールの足④荒削り段階のクールガールの足。

こうして、切削条件を入力したら、切削材料となるABS樹脂の素材を機械に取り付けます。今回のような足首の場合、実際の使用時にかなりの力が加わり負荷がかかるので、おそらくレジンによる複製品は球体関節部分が折損する恐れがあります。したがって、撮影に使うための足は、すべてABS丸棒(30mm径)を直接削りだしました。これくらいのサイズですと、回転切削できるので、写真のようにクランプに両端を固定したら、あとは七面鳥の丸焼きみたいに360度回転させて切削することができて楽です。基本的には、荒削りを回転切削で、あと、足の指先など細部の仕上げ切削には特定角度で平面切削するなど、このあたりはまた、これでCAM切削職人がおられるくらいに、経験が必要な高度な技術の世界になっていきます。でも、いまは、切削ソフトが非常に優秀なので、我々アマチュアでもかなりのところまで仕上げることが可能です。

  ただ、切削作業は、絶対的な時間がかかります。このクールガールのハイヒール仕様の足では、荒削り2時間、仕上げに4時間かかりました。夜間は、退社前に自動設定しておけば、なんとか一日で、2人分の足が切削できる計算になります。本番の金型なんかを切削する専門会社のCAMでは、なんと10日間くらい連続で削るそうです。精度を高めるためにゆっくり金属を削るので、しかたないそうです。つまり、金型の世界では、良い金型を造るには、ゆっくり丁寧に削るということです。右端は、クールガールオリジナルの足と接合したときの全体のバランスを確認するために、時間を節約するために、荒削りだけで取り出して、バランス確認をしたときの試作品。その結果を考慮して、再度、3DCGソフトに戻り、修正を繰り返すという作業になります。

クールガールの足⑤完成した現実空間のクールガールのハイヒール用足クールガール用ハイヒール3Dソフト画面、仮想空間上のクールガールのハイヒール仕様の足。クールガールのハイヒール②完成した試作のクールガールの足にハイヒールを履かせてみる。この完成により、09年2月より製品写真撮影開始。

以上の苦労の甲斐あって出来上がった、最終試作品。これは、実際の商品撮影のモデルさんたちに履かせるハイヒールやブーツに使うので、肌色にエアブラシを吹いたもの。ただ、球体関節部分は、使用時の擦れにより塗装がはげて、ABS樹脂本来の地肌が見えています。この現実空間のクールガールハイヒール用の足を、となりの3DCG画面内の仮想空間の足と比較してどうですか?感動しますね!まるで、マトリックスの世界と同じです。

  しかし、このようにデジタルとアナログをコラボさせて、仮想空間の物体を現実空間の物体に造型することができるということは、すごいことですよ。つまり、極端に言えば不可能なことが無くなるわけです。それこそ、小物から、中世の古城の地下牢といった、ジオラマ全体まで作ることが出来てしまいます。いままで、原型師の方の手作業によるアナログ造型では、現実的に限界がありワンオフが限界といった、非常に困難な形状でも、CGデジタル造型なら可能になる場合はたくさんでてくるでしょう。そういう意味で、これからは、アナログ原型師だけではなく、デジタル原型師と呼ばれるような若い職人さんがもっと増えればいいなあ、そうすれば両者のコラボでもっと明るい未来がやってくる気がします。アナログ造型では、やり直しは気軽に出来ませんから素人にはなかなか難しい世界ですが、デジタル造型では、やり直しはアンドゥを実行すれば簡単ですから、気軽に取り組めるでしょう。また、原型のスケール変更や一部修正などが生じても簡単です。

  6インチハイヒールを作りたいと思ってから、約一年かけてやっと金型量産までこぎつけました。あとは、一日も早く皆さんのもとへ、6インチのピンヒール、ショートブーツ、ニーハイブーツ、サンダルなどビザールテイストがたっぷりの商品をお届けできるよう頑張ります。それにしても、こうして見ると、クールガールの造形美といいますか、美脚には感動しますね。原型を作られた方たちは、ほんとに素晴らしい仕事をされたと思います。それだけに、もっとこの、クールガールのもつ美のポテンシャルを引き出せるようなアイテムを企画開発していきたいと思います。

クールガールのハイヒールクールガールの美しい造形美。その魅力をさらに引き出すビザールクイーンの6インチハイヒール。